ーーまず始めに、寺島さんご自身のセパタクローとの関わりを、自己紹介も兼ねてお願いします。
寺島武志監督(以下寺島さん) 去年までセパタクローの現役選手をやっていまして、今は日本代表男子チームの監督を務めています。現役の期間は、大学1年生の途中から、22年ほどですね。その中でほぼほぼイコールの21年ぐらいを日本代表として活動させてもらっていました。日本代表の活動以外では、セパタクローの普及を目的としたリーグ戦『ES LEAGUE』の代表理事やアスリートのパフォーマンス専門ジムDAHの運営責任者もしています。
ーー一昨年の8月に現役引退を発表されました。のちに日本代表男子チームの監督に就任するに至った経緯をお聞かせ頂けますか。
寺島さん 元々、前回2018年のアジア大会(アジア競技大会:アジア・オリンピック評議会が主催するアジア地域を対象にした国際総合競技大会で、原則4年ごとに開催。)が終わったタイミングで、自分の中でどこかで区切りを付けるところもあって、前任の飯田(2011-2022に渡り監督を務めた飯田義隆さん)が長くやっていたので、それも含めて交代の時期を見ていかないといけないねっていうのはずっと言っていました。ただ2019年に入ってから、自分自身が膝の大怪我を負ってしまって。今後どうやって選手生活を続けていくのかっていうイメージを当時はあまり持てなかったのですが、それまで大きな怪我をしてから復帰というプロセスを経験したことがなかったから、逆にそれをやってみたいという風になり…。良いキッカケというか、チャレンジしたいっていう、”復帰”という選手としての目標ができたので、そのときはそのまま選手を続けました。そんな中で2022年が近付いてきて、そこまではプレーをして、2022年のアジア大会で引退をしようと決めていたのですが、それが延期になりまして。その先の2026年の自国開催のアジア大会を見据えたときに、気持ち的にそこまでは自分は確実にプレーできないなという思いもあったりして。その状態で自分が出場するぐらいなら…と思ったところで、自分自身とチームのことと、しっかり向き合うようになりました。ここが引退を決意したタイミングでしたね。指導の部分も新しい風を入れていく、というところが再燃して、このタイミングで監督交代しようという形になりました。
ーー長らく選手生活をされていた中で、セカンドキャリアとして指導者に転身するイメージはお持ちだったのでしょうか。
寺島さん そこはやはりありましたね。何かしらセパタクローに関わって生きていきたいというものはありました。その中で自分がやるとしたら指導者だなという風には思っていたので。
ーー現・日本代表の選手たちは殆どの方が、寺島さんの現役時代のチームメイトとして戦ってきた方が多いと思うのですが、指導者対選手という関係性に変わったときに何か思うところはありますか。
寺島さん 選手生活の終盤は特に、僕はベテランとして、選手たちに接していましたし、立場が変わったとてそこまでの違和感はないですね。むしろ良い距離感で、これまでのスタンスを維持した感じでできているので、そのあたりはお互いのことを理解していることが強みとして、出てくると良いかなと思っています。
ーー寺島さんの理想とする指導者としてのモットーや日々心掛けていること、選手との向き合い方、大切にされていることがあれば教えて頂けますか。
寺島さん まだ探り探りではありますが、技術的な指導をするというよりは、しっかり選手と話をして、選手たちが自分で気付いて理解して、自主的に取り組んでもらえるように、しっかり順序だてて話をするっていうところは心掛けていることですね。代表選手になるとある程度は技術があって、それをどう組み合わせていったり、より長所を伸ばしていったり、あるいは弱点を克服させていったりとか。あともう1つは、アジア大会に向けていく中でこうしようと思って決めているのは、必ず力強い言葉・ポジティブな言葉と目標を、ことあるごとに口にする、っていうのは意識をしてやっています。
ーー普段仕事をしながら代表としても活躍されている選手の皆さんは、日頃から色々と考えることが多いと思うので、分かっていても言葉として、脳に刷り込まれるようにするというのは良い効果を生み出しそうですね。
寺島さん そうですね。願っていれば獲れるものじゃないし、思っていても勝てるわけではない。ただ、勝つための行動、モチベーション、意欲とかハングリーさというのは、日々そういうものをどれだけ意識して取り組むかだと思っているので。僕自身も現役時代、やっぱりそれにムラがあって、自分の中で気持ちが押しつぶされそうになって、競技の目標とか目的を見失いかける瞬間っていうのがあったりしていたので、そこに力強い言葉、自分のやるべきことは何なのか、チームでやるべきことは何なのか、っていうのを示してくれる人がいるというのは非常に大事なことだと思っていますね。今の段階では、このアジア大会でメダルを獲ること。あとはそのための努力をするというところ。そういう言葉をなるべく、ことあるごとにかけるようにしています。
ーー少し話は変わりますが、去年に開幕したES LEAGUE(日本初のセパタクロー国内リーグ)が1stシーズンを終えました。代表理事を務められている寺島さんの目から見て、全体的にどのような印象でしたでしょうか。
寺島さん リーグ戦というのは、やはりスポーツをやる上で、周りを見ればどの競技でもやっていることだし、セパタクローの本場タイでもやっていて、我々もやりたいという想いというか、いつかはやっていかないといけないというタスク、使命になっていたと思います。それを実際に1シーズン、色々な方の支援があって、クラウドファンディングを活用してたくさんの方々に支えてもらった中で開催できたというところに関しては、大きな進歩だったかなと感じています。試合とか、内容のところでは物足りない部分があったのですが、まずは日本で初めてのリーグ戦を無事にやり通せたことが重要なことだと思いますね。
ーー先日、8月11日(金・祝)から2023シーズンが始まることが発表されました。(取材日: 8/1)新たなシーズンにはどんなことを期待しますか。
寺島さん 当初の目的として「日本代表の強化」というテーマがあります。それはなぜかというと “真剣勝負の場が足りていない” 状況を打破したかったからです。日本では、年に大きな大会が社会人だと2つあって(全日本オープン選手権大会・全日本社会人選手権大会)、それ以外に小さな大会が幾つかあって2,3ヶ月に1回、大会自体はあるのですが、どうしても海外に比べると、真剣勝負の機会が少ない。これではなかなか強化が進んでいかないというのがあって。そういう場所を増やすという目的があったことで、1stシーズンは多くの方の演出や環境面のサポートがあり、かなり華やかにやることができました。そういった場所でプレーするということも、選手自身がまだ慣れていない部分があるとか、魅せる方向に気が行ってしまうとか…。そういう面で真剣勝負のところがどこまで突き詰められたかなっていうと、少し課題が残るシーズンだったと感じるので、新シーズンはそこにフォーカスを当てて、その先の日本代表の強化に繋がる内容になれば良いなという風には思っています。
ーー「日本代表の強化」というワードが出てきました。来月9月23日(土)、いよいよ第19回アジア競技大会(中国・杭州)が開幕します。寺島さんご自身も貢献した第18回大会(インドネシア・パレンバン)では、銀メダル獲得という最高成績を残されました。更に上の金メダルを掴み取るのに、必要な要素はどんなところにあるのでしょうか。
寺島さん メダルを獲るってなると、本当に難しいと思っていますが、可能性は有ると信じています。まず、絶対王者タイがいて、そのタイに他の国が勝つのは稀です。競技環境もタイはほぼプロの形で取り組んでいるし、ミャンマー・マレーシア・韓国なんかも同じような環境下でやっています。それらを見たときに、今の日本の仕事と両立をしながら、いわゆる競技とのデュアルキャリアでやるというハンデがある中でどうやったら金メダルを獲れるかっていうのは難しいと感じながらも常に考えている部分ですね。
ーーシンプルに費やす時間、練習量といったところなのでしょうか。
寺島さん そうですね。あとは競技を始める年齢の違いというのも圧倒的にあるなと思います。ただ日本はだからといって、望みがないかというとそうではなくて。大人から始めるというところで、効率の良い時間の使い方をして、みんなが成長しているので、今のようにデュアルキャリアで進めていく中では、真面目さとか直向きさとか、日本人特有の内面の部分が競技にも繋がっているので、戦えるところは大いにあるのかなと感じていますね。特に海外のチームはスキルやパワーに頼った戦術も多いので、逆に日本らしさを活かした緻密な戦術や他国がやっていないイノベーションを起こして、JAPANオリジナルで勝ちたいと思っています。その辺りの可能性や成果というのは徐々に見え始めているので、期待していてください。一方大事なところで、競技年数からくる経験値だとか、プロでやっていて重責を背負っているだとか、プライドとか、そういうものの差もやはり見え隠れすることもあるので、そこを乗り越えていけるだけの、メンタリティもそうですし、ハングリーさというのは、より強くしていかないといけないのかなと思っていますね。
ーー2023年の中国・杭州、2026年の愛知・名古屋。今のお話を踏まえて、改めてアジア大会に向けての意気込みをお聞かせください。
寺島さん 2026年のアジア大会に向けて、やっぱり今年のアジア大会というのは1つの試金石というか、その先に繋がるものを残さないといけないと思っていますし、選手たちも出るからには結果を追い求める、そういう熱量を強く持っていると思います。僕自身も立場は変わりましたけど、前回大会で銀メダルを獲ったので、今回は金メダル。と言いたいところではあるのですが、ただ現実的には言えば獲れるというものではないので、そこは少し冷静に見て…。今大会では2種目に出場して、1つは銅メダル獲得(チームレグという団体戦)、もう1つのクワッドでは前回大会と同じ決勝進出。ここを目標にして、しっかりやっていきたいと思います。
【アジア競技大会】
アジア競技大会とは、4年に1度開催されるアジアのオリンピックと称される国際総合競技大会のことであり、セパタクロー競技においては最も権威のある大会である。直近の2018年インドネシア大会では、41競技465種目が実施され、45の国と地域から11,000人の選手が参加をし、開催。夏季オリンピックに継ぐ大きさの国際総合競技大会で、そんな大会が来月9月23日に中国・杭州にて、第19回大会として開幕する。3年後の2026年には第20回大会が愛知・名古屋で開催されることが決定している。