ーー大山田CUPはどんな目的で開催されているのでしょうか?
小山直樹代表(以下小山さん) 「選手たちの成長は全て環境(基準)で変わる」と考えているので、インテンシティー(強度)が高い、切り替えが速い、ハードワークができる、幅と厚みを使う、原理原則をしっかり理解できているとか、様々な強度の高いチームにお声掛けさせてもらって、新年度になった一番早い時期に選手たちにプレースピードなどを体感させて、基準をどこに設定するかを選手に示すことを目的に開催しています。しっかりと肌感で学んだことをその後に活かしてほしいという狙いですね。
ーー招待しているチームはJクラブや強豪の街クラブが殆どですが、どのような意図があるのでしょうか?
小山さん 20チームを招待していますが、その殆どが各県代表になりうるチームです。強度の高いチームと試し合いをさせていただいて、新6年生になってすぐの時期に選手に基準を示すことで、それぞれのチームにおける基準が更に高まり、それが習慣化していくことを期待しています。毎年毎年、学年によってレベルが違いますからね。
ーー中には遠方から来ているチームもあります。どのような点が大山田CUPの魅力だと感じていますか?
小山さん Jリーグの下部組織のチーム、全国大会優勝経験のあるチーム、各県を代表する全国常連のチームと対戦できることや、昼夜問わず、電話では聞けないようなサッカー談義など、意見交換ができることですね。指導者って、学ぶことをやめたら指導者をやめるときだなと思っているので、こういう強豪が集結する大会で全国優勝経験のある指導者たちと触れ合えるということは魅力だなと感じています。なかなかそういう方と出会うってないと思うので。指導者同士の繋がりがここでできるっていう。意見交換ができるのも価値あることだと思いますね。
ーー新しい年度を意識する大会ということで、選手たちにはどんなアプローチをしているのでしょうか?
小山さん 大会が終わった後で、対戦したチームや決勝戦の映像をもとにミーティングを行い、そこで基準を示していますね。今後活動していく上で、主体的にリーダーシップを発揮し、取り組んでほしい、とアプローチしていきます。自分たちの試合のビデオを見て、サッカーの原理原則を押さえて理解して、新たな基準を大会を通して見極めていくのが目的です。今回は8回目の開催になりますが、第6回大会に出場した大山田SSS(42期生)の代は、当時20チーム中19位でした。選手に聞いたら、とにかく何にもできなかった、全然通用しなかったって。じゃあ今の実力(基準)はここだよな、じゃあ目標の基準はどこにするっていう話をして。ここまで持ってくるように俺らは頑張ろうぜって。練習中もちょっと気持ちが入っていなかったりしたときに、自分たちが設定した基準に足りているか、いけているのかと言いながらやることで、やっぱりやろうやろうという風に変わっていったんですよね。結果その学年は、冬の全日三重県大会を制して、大山田にとって8回目の全日本少年サッカー全国大会に出場できましたね。
ーー大山田CUPに参加する指導者や選手たちに向けて、メッセージをお願いします。
小山さん 今回の大会にご参加いただき、経験したことを今後に繋げるために、お互い切磋琢磨しながら、冬の全国大会でお会いできるように頑張りたいです。参加していただいた選手の中から、プロサッカー選手が何人誕生するのか楽しみにしています。皆さん、お越しいただきありがとうございますという感謝の気持ちと、これからも情報共有をしながら切磋琢磨していきましょう、という感じですね。また来年、第9回大会もよろしくお願いします。
バディーSC 梅澤さん
本当に素晴らしい大会ですね。リーグ戦から気が抜けないと言いますか、参加チームそれぞれのカラーがあって、自分たちよりもレベルの高いところと対戦できるのは、手応えを感じる部分もあれば、まだまだ足りないところもありますし。球際の強さ、ドリブルの質、そういった他のチームとの差が見えてくるのがいいですね。
ヴィッセル神戸SP 林さん
関西だけではなく全国から強豪チームが来ている大会で、前回大会も参加させてもらったのですが、そこで優勝できなくて…。ただ選手たちの成長を感じることができて、また今年度も新たに選手は変わったので、彼らにも同じ成長を感じてもらいたいと思い、出場しています。僅差のゲームが多くて、球際のところとか切り替えのところで甘さを見せてしまうと勝てる相手は1つもないよ、と選手たちには話していますね。こういうハラハラドキドキを選手たちに感じてもらうことで次の成長に繋がると思います。
松本山雅FC U-12 山崎さん
この4月のタイミングで、全国の強豪、関西のチーム、全国区のレベルにあるチームと対戦して、自分たちを知る、ありがたい大会だと思います。毎年この時期は何も予定を入れないようにしているぐらいですね(笑)。初日に対戦した関西の2チームは特に、選手の人間性がしっかりしていて、自分の意見をちゃんと持っている選手が多いなと感じました。地域によって当然特徴の違うサッカーが見えるので、そういうのも味わえる環境はとてもありがたいです。
名古屋グランパス U-12 滝澤さん
僕らJクラブだと新シーズンは大体2月からスタートなんですけど、4月から新しい学年ということで、この時期にこうやって、強豪クラブが集まって、体感できるというのは指導者にとっても選手にとっても、自身を知る機会というか、ここでどんなことができるのかで、ジュニアユース前最終学年の過ごし方が変わってくると思うので。あとは大山田SSS代表の小山さんはもちろん、保護者の方々や多くのスポンサーなどこれだけ大会に注力していただいて、こういうオフザピッチのところの取り組みは、うちでも学ぶべきところかなと感じましたね。
ーー大山田CUPの印象はいかがでしょうか。
樋口士郎さん(以下樋口さん) もう全少(全日本少年サッカー全国大会)と同じレベルですよね。素晴らしいなと思いますし、ぜひ4種の指導者には観に来て欲しいなと思う大会ですね。高校でいえば、Jも、高体連も、強いところが集まってやる大会と同じですから、子どもらはこういう大会に来て初めて、そのトップレベルを体感できますのでね、やっぱり基準というものが肌感で、監督も選手も両方が、しのぎを削るゲームをたくさんできるかどうかっていうのが大事だと思うんですけれどね。そういう意味ではこういう環境は素晴らしいなと思います。
ーーやっぱりレベル差があると、どうしても圧倒的な差が出てしまうじゃないですか、特にジュニア年代だと。
樋口さん 勝っている方も、負けている方も、どっちもそうですよ。大山田は県内の大会やリーグだといつもボールを握って、こういう大会だとゲームを握られながらもどう勝つかっていうね。よくでもこんな強豪チームを集められたと思いますね。Jがいっぱい来ているわけで。
ーー樋口さんから見られたら、高校の指導者、現在はFAコーチとかもやられていて、育成年代に求められるベース作りは何だと思いますか。
樋口さん 大山田・代表の小山くんが一番わかっているとは思うんですけれど(笑)。見る、止める、蹴る、っていうベースを上げていくことに尽きると思いますね。そこのベースがあれば、まあ、後メンタルとフィジカルが成長段階で身に付いてくれば、選手ってほっといても伸びるようになってくると思うんですよね。でもフィジカルだけとかね、ここのところの根性論とかだけでいってしまったら、上に行けば技術の高い選手、フィジカル強い選手ばかりですから。その中でベースのない選手は絶対に頭打ちするんですよね。この年代で、見る、止める、蹴る、のベースをしっかり作って、それでフィジカルやメンタルがその上にきて、タフな選手と言いますか、大人になって自立していく。そういうのが順番に備わっていけばJリーグとか代表に繋がっていくと思うんですけどね。ここで、やれ根性論とかやってしまうと、上に行ったら完全に頭打ちしてしまうと思います。
ーーメンタルの作り方というと、私の経験でいうと、厳しいトレーニングを続けてきて、そこで1個先が見えたときにちょっとずつ成長した感があって。どこか昭和的な根性論に近いところと、やれることが増えて自信に繋がっていくというか。具体的なメンタルの作り方って何かあるのでしょうか。
樋口さん まだ四中工なんてある意味ラフな方だと思うんですね。目的をもっているやつらが集まっているから。だからみんな、Jリーガーになりたいとか、選手権優勝したいとか。目標もある程度のレベルも、共通していますので。じゃあみんなで頑張ろうと。じゃあそのレベルにいるためには厳しい練習も必要だし、フィジカルトレーニングもしないといけないし。結局いつもより良い準備をして、自分が上手くなるためにはどうしたら良いか考えて取り組めっていうことができれば選手って変わってくるんですよね。だから自分の長所と短所をしっかり理解して、じゃあそのためにはどんなトレーニングをしないといけないのかとか、どういう取り組みをしないといけないのかということを、自分で考えましょうっていう。そこに本気になったやつは変わっていきますよね。海外に行けばそれができないやつは淘汰されてクビになっていくわけですから。それで新しい選手が来ると。AくんがダメならBくんが入ってくるわけですよね。Cくん、Dくんと次から次へと。でも我々は預かった選手を何とかしないといけなくて、Aくんを成長させるためには何をせなあかんというのがあるので。南米とかヨーロッパみたいな、競争の中の厳しさというか、弱肉強食みたいな、極端にはそこまでいけないので、でもチームの中での当然競争とかっていうのは徹底してやっていかないといけないと思うんですけどね。難しいところなんですけどね、メンタルっていう部分は。強くしていくためには言われたようにちょっと厳しい練習というかね、根性的な練習ももちろんね、必要かなとは思いますけど。でもこの年代ではやってはダメだと思いますけどね。ジュニア年代では楽しく、選手が勝負にこだわって、それが大事だと思います。指導者がああだこうだってなってしまうと、自由な発想が生まれないですからね。
=== 編集後記 ===
SVOLME FAMILY INTERVIEW 2024 EX 最後までお読みいただき、ありがとうございます。
大山田SSSの後編となる今回の記事では、主催する「大山田CUP」の実施意図やそこにかける想いを語って頂きました。
#3にも出てきた「指導者は学び続けながら進化する」という言葉。
教えるということに徹して、インプットが疎かになっている人は指導現場を見ていても少なくないと感じる時があります。
一方、大山田CUPに来ているチームの指導者は、大会初日の夜に行われた懇親会の場でもそうでしたが、
学びの意欲が高い方ばかりで、目指す先も全国出場ではなく、全国に出てそこからどこまで勝ち上がれるか、
また決して勝ちだけにはこだわらない育成をベースに、色々なお話をされているなという印象を受けました。
招待されている20チームの中には、遠方からバスで6時間近くをかけて大会に参戦するクラブもあり、
それもなんと監督自らハンドルを握り向かってきたという…。
小山さんの熱量も凄まじいですが、それに匹敵するほどの熱量を持つ方が多く集まっているのは、
指導者の基準も高いなと感じた瞬間でした。
“人それぞれの価値観がある”というのはよく耳にするフレーズですが、
同時に、人それぞれの基準や物差しがあることも事実です。
その基準は、多くが幼少期から形成され、大人になっても1つの基準として色濃く残るものと思います。
身を置く環境や体感するレベルを高めることで、基準が変化していき、人間は成長していくのだと、
小山さんの育成論から学ぶことができました。
その学びの機会を下さった小山さんへの感謝の言葉を最後に、後記を締めさせていただきます。
ありがとうございました。また次回の取材もお楽しみに。