ーーはじめに、30歳で監督というのは全国的に見ても若い方だと思いますが、年齢が故の大変さなどはありますか。
桂大晴監督(以下桂監督) 大変さと言えば、レベルの高い大会フェスティバルに参加させてもらうというのが、私の中で苦労した所ですね。他のチームに同世代の監督がなかなかいなくて、自分の人脈で練習試合を組むことができませんでした。積極的に様々な強豪チームに連絡しましたが「どこ、沼田高校って?」っていうところがあったりして、練習試合を組むことは難しかったです。私が監督に就任する前は、強化を図るタイミングで練習しかしていなくて、練習試合、大会やフェスティバルに参加することはありませんでした。私自身、たくさん試合をして上手くなった経験があるので、練習試合やフェスティバルに参加をする計画を立てるのですが、練習試合の相手が決まらない。強豪チームが集まるフェスティバルに出たいと思っても、呼んでもらえないっていうのは、当初苦労しました。県でベスト4になってからは、少しずつ声をかけてもらったり、フェスティバルに参加できたり、ちょっとずつ良くなってきています。
ーー一方でチームにとって、監督が若いということが強みになる部分はありますか。
桂監督 今この年齢の強みと言えば、手本を見せられるということ。こうしたらいいよっていうのをそのままやって見せることができる。そういうところでは説得力はあるかなと。選手にこうしたほうがいいと伝えるだけではなく、こういうボールを蹴ればチャンスになるとか、こういう体の向きでボールを受ければ取られないとか、実際にトレーニングの中に入って、実践しています。
ーー監督に着任されて2年。振り返ってみていかがでしょうか。
桂監督 9年ぶりに選手権予選でベスト4入りして、周りから凄いと言われることが増えました。広島のベスト4は、広島皆実・瀬戸内が常連で、それ以外の2チームは目まぐるしく変わるんです。その中で、沼田は選手権予選で2年連続ベスト4、新人戦も含めると県大会4大会連続でベスト4を成し遂げているという意味では凄いよねという感じで。何をしたん?とかよく聞かれたりもするのですが(笑)。ただ、周りから言われるほど凄いという感覚は私にはなくて、それよりも、私の中では結局またベスト4の壁を破れなかった、全国に出られなかったというのが振り返った印象ですかね。
ーー監督に就任してから、意識的にチームとして変えたことはありますか。
桂監督 組織作りは、だいぶ変えましたね。サッカー部自体の組織っていうところ。全国大会に行きたいとずっと言っているのですが、じゃあ練習どうなのか、挨拶はしっかりできているのか、普段の生活態度はどうなのか。沼田の良いところは、バレー部、剣道部、水泳部など体育コースの中に全国常連の見本になるクラブが非常に多いです。じゃあ他クラブと比べたときにサッカー部はどうですかと。どういうチームが全国大会に出られるかとか、全国で勝てるかっていうのは、私の全国に出た経験や、遠征に行った時に他の強豪校を見て「こういうところは常連になるよね」と、自分たちとは何が違うのかを選手に伝えて、意識改革はかなり取り組んでいきました。全ての基準値を上げるっていうことですね。
サッカーと向き合うための意識を高くするという部分は重点的にやりましたね。ただ満足をして、楽しくサッカーすれば良いわけじゃないよと。日常から、覚悟持って、本気でやらないと。この2年間、人間性の部分を大事にしてきました。あとはフィジカル的な強化はトレーナーに入ってもらって、筋トレを含めて指導をしてもらって、週に何回は自分たちでやりなさいってやり方を教えてもらったり、食事の改善、補食活動も始めたりしています。
ーー理想とするチームやゲーム展開はありますか。
桂監督 サッカーは自分たちだけではなく相手がいて、22人がいるので、今日は相手がどういう風にプレッシングに来ているとか、どういう風に守っているとか、どういう風に攻めているかっていうのを、自分たちでいち早く察知して、じゃあ今日はこういう戦い方をした方が勝てるよねっていうのを、選手たちが考えながら、判断できるようにしたいなと思っています。去年1年間は結構苦しんだのですが、沼田のサッカーは広島県内では繋ぐ、パスサッカーって良く言われるのですが、それをさせないためにボールを持たせないっていうチームが増えてきて、前からのプレスが厳しくなりました。そういう相手に対して、圧倒的に状況が悪いのに無理にパスを繋ぎ、失点をする場面がかなり増えたんですよね。でも前からプレスがくるから、前線は2対2の状況なんですよ。2対2だったらそこに早く入れた方が得点の可能性は高まるじゃないですか。じゃあ前線に早くボールを入れようとか、外から僕が今こうだからこうしろって言うのではなく、選手たちが、相手がこういう状況だからこういうサッカーで対抗しようとか、その柔軟性は持って、自分たちで判断をしてやらないと、創造性がなくて面白くないよねって。指示待ちではダメだとよく話しています。11人の選手全員がそういう状況判断をして、個で打開するだけでなく、攻守で数的優位を作る状況を自分たちで作り出せるようにというのが理想です。
ーートレーニングで意識されていることはありますか。
桂監督 基本的には攻撃練習がメインですね。攻撃の練習の中で、逆に守備は何が大事なのか、対人とかグループでの守備はどうするかって感じです。守備は割と短期間で作り上げられるのですが、攻撃は時間が掛かると思っています。準決勝になると、どうしてもボールを持てなくなってきます。個の能力で差が出て、守備の回数が増える。ベスト4で4回負けて何が問題かとなった時に、やっぱりボールが持てないから勝てないという話はずっとしています。だからどうやったらボールを持てるか、1対1の状況は作らない、ここにサポートが必要だよねって。相手が強いから、上手いからってパスを受けるのを恐がったら、絶対勝てないよって。でもそれが準決勝になるとまだまだできていないなと感じます。
ーーベスト4の壁を超えるには、具体的には何が必要だとお感じですか。
桂監督 トレーニングの中で、個の能力、基礎技術レベルっていうのは、上がってきていますし、ある程度の個の力は身に付いてきました。チームとしての戦術もどういう風にやるかっていうのはもう浸透してきています。だけど、メンタル的な部分は、まだまだ弱いのかなって。絶対的にここが大きいかなというのはあります。広島皆実・瀬戸内の子たちは中学校の段階でもう全国大会に出て当たり前の子たちが多かったり、もう県の決勝を経験してきた子たちがほとんどで。そこでいざ準決勝の舞台でやった時に、経験値の部分で壁にぶち当たっている感じはありますね。そこのメンタル的な部分の向上が必要です。じゃあどう改善していくかというと、冒頭にお話ししたように、色々なチームと外に出て試合をやったり、経験値を積むということは大事かなと。個人の技術やチーム戦術的な部分は負けていないと思うので、そこが埋まればまた違うゲームになるのではないかなと考えています。
ーースローガンで、2021年は奪取、2022年は常勝、2023年は結実。今年は実を結ぶ、そんな年になるかと思いますが、今年の意気込みをお願いします。
桂監督 そうですね、今年こそは…。
今まではベスト4に入ったね、おめでとう、と言われていましたが、今はベスト4でおめでとうではありません。周りからの見られ方も変わってきました。今年は、ベスト4に入りたいとか、シード権を取りたいとか、そういう話じゃなく、もう優勝しないと評価はされないってところになっていると思います。全国に行っていないチームが言える立場ではないですが、広島県はここ最近高校サッカー選手権の全国大会で勝ててないんですよ。瀬戸内が選手権でベスト4に入ったところから勝てていなくて。ちょっと前までは広島県はベスト8だったり、優勝したり、広島県は強いというイメージがあったと思うんですけど、今はたぶんそういう印象はなくなっていますよね。抽選会で、相手が広島県だったらラッキーだと他のチームも思っていると思います。沼田は全国に出るだけじゃなくて、広島県を代表するチームとして全国に出て全国で勝ち上がるためにどうするか、この強い気持ちで日々を送ります。そういった意味では全国に出ないと何の意味もないですが、全国に出てどうするか、そういうフェーズに入ってきたという思いがあります。何としてでも今年は結果を出したいと思っています。