ーー今まで数々の取材を受けてこられた中で、森崎さんのサッカー観として「幾つになってもサッカーを楽しむ」というお話をよくされています。森崎さんにとっての”楽しむ”とは、具体的にはどういうことなのでしょうか。

森崎嘉之代表(以下森崎さん) 楽しむって、ただ漠然と楽しいぜっていうことじゃない。試合に勝ったときが楽しいのか、ドリブルで抜いたときが楽しいのか、ピンポイントにパスを通せたときが楽しいのか、敵からボールを奪ったときが楽しいのか。サッカーにおいてはその瞬間瞬間で色んなことがあると思うんですよ。エムドリジュニアユースとは別に小学生対象でスクールも運営してますが、そこではサッカー未経験だった子が数多くいます。そういう子たちにとっての楽しさは、サッカーをするっていう感覚よりも、このグランドに来る、サッカーをしに来るっていう楽しさを味わっているんじゃないかなと見てて感じます。そういう風に一人一人楽しさが枝分かれしていて、最終的にサッカーが楽しければそれで良くて。自分も幼少期でいうと、ずっとサッカーが楽しくて、何が楽しかったかって勝つことよりも自分がゴールを決めるというところの中で楽しさを見出して。点を取って、勝って、その延長でサッカーが好きなんだっていうのはありましたね。個々に色んな子どもがいますけど、それぞれが楽しいと思える部分を引き出してあげたいっていうのはいつも考えていることですね。

ーー競技としてサッカーをする上では、結局負けたときに楽しくなくなることがあると思うのですが…

森崎さん 勝った負けたよりももっと大事なことがあるってずっと思っていて。とにかくサッカーを楽しみ続けて欲しいなっていう。例えばシュート・パス・ドリブルとか基礎技術で苦手なプレーが何か1つあったとして、それを上達させる楽しさ。強い弱いとかっていう軸ではなくて、練習して上手くなること。上手くなって試合でそれを実践する。成功失敗はあっても、苦手を克服するというその過程を楽しめれば良い。最近自分がすごく思っているのが、生涯サッカーを現役でやってほしいってこと。だから子供達の楽しいがどこに向いているのかっていうのを見ながら指導しているときが自分も一番楽しいですね。高校に上がっても、大学に行っても、社会人・シニアになっても、サッカーって良いな楽しいなって思えるような人生を送ってほしい。他のジュニアユースでも指導者から何か言われてやらされている感を否めないチームを見たりするけど、自分の人生を楽しくするのはやってる子供達本人だから。指導者はまず第一にプレーヤーズファーストの精神を持たないと。チームは勝てたとしても、個々でみたらどうなのって。自分は育成年代にはそこまで別に求めない。あの子上手いねとか、チームに対してじゃなくて個人にフォーカスされる方が指導者としては嬉しい瞬間。

ーー森崎さんは高校で市立船橋に入学するまでは千葉市内の街クラブや部活動でプレーされていましたが、その当時も“勝ち負け”よりも“楽しさ”を軸に過ごされていましたか。

森崎さん そうですね。昔と今は時代が違いますけど、何が違うかって言ったら指導者が昔はいなかったので。俗に言うと、陸上をやっていたお父さんコーチとか。サッカーがまだマイナーだったころ、やっぱり自分で色んなものを見れる時代ではなかったし。ダイヤモンド・サッカーっていうのは観てたけど(笑)。(三菱ダイヤモンド・サッカー…1968年4月から1988年3月、1993年4月から1996年9月の2期に渡り東京12チャンネルおよびテレビ東京で放送されていたサッカー情報番組)高校サッカー見て、自分もこうなりたいって憧れを持って。自分なりに楽しんで、自分なりに上手くなって。だから誰からも教えられてないっていう自負がある。でもそれは何かって言ったら教えてくれる人がいないからじゃなくて、自分の中にある好奇心。こうしてみたいああしてみたいっていう風に思わせてくれる指導者はいたかな、小学生のときは。今この時代、色んな情報がある中で、もったいないなとはすごく思いますけどね。プレーのヒントになることがいっぱいあるのに。とりあえず真似するところから入るのが良いとは思いますね。

ーー先程もお話し頂いたように今は様々な指導者がいる中で、勝つことこそが楽しいという風に考えるチームが少なくないと思いますが、そのあたりはどう思いますか。

森崎さん ジュニアユースにしても、高校生にしても、どこに矢印を向けているか、じゃないですか。なんか変な話、強いチームの指導者がなんで強いチームを勝たせられないのって単純に思っちゃうわけですよ。1回でいいから、何もできない子たちに指導してみたらってすごく思っちゃう。っていうぐらいちょっとプライドが高い人たちが多いし、それで本当にやってる選手たちが楽しいのかと。一生懸命に教わりたいって思う子供達もいるだろうけど、やっぱりどこか身体能力任せだし、できる子には言わないし、いわゆる早熟系の選手には言わないし。足の速い、背の高い子は何もせずともできちゃうんですよ、と。何か教えないの?って。引き出しを多く増やせばいいのにと。そういうのはいかがなものかなって思いますけどね。一番上手い子には一番教えた方が良いと思うし、全部が全部そうではないと思いますが。4種に関しては、教えない人たちがすごく多くて、とある指導者に会って何を練習で教えてるんですかって聞いたら、”ポゼッション”と答えて。ちょっとおかしいなと。リフティングとかはやらないんですかと聞いたら、うちは一切やらないと…。勝ちたいがためにお父さんコーチがガンガンそういう指導をするという光景は自分にとっては違和感でしかなかったですね。うちのジュニアユースの考え方でいうと、やっぱりパス&コントロール、ドリブル、リフティングができないと難しいですよねっていう。リフティングって何のためにやるんですかって言ったらみんな知らないから。全てはボールコントロールのためですよと。

ーー指導者の観点でいうと、森崎さんの憧れの指導者や理想の監督像はあったりするのでしょうか。

森崎さん 高校でお世話になった布監督がやっぱり一番影響ありましたよ。ただ市船は守備から攻撃っていうイメージしかないから、守備の練習は当時めっちゃしてたけど、攻めはなかったですね。守りのためのオフェンスの練習はしてたけど、全体練習の中でこういう風に攻めてとか、東福岡みたいに両翼を置いてみたいなのはなかった。あんまり詰め込まれ過ぎず、みんながのびのびやってきたっていうのがあったから、どんな指導者が良いんですかって言われても自分では分からない。わりかし自由にさせてもらえてたから。そこが原点だから。まあ、全国の名将ですからね。この人のもとでサッカーできて良かったとは思いましたね。シュートとかは、布先生も昔FWの選手だったから、色々と教えてくれたっていうのは少なからず影響はあるかな。

ーー今までのご経験から監督と選手、大人と子供。どんな関係性を持つのが良いと思いますか。

森崎さん 関係は、やっぱり”友達”ですね。うちの子供達は、コーチって言わないから、さん付けで呼びますからね。馴れ馴れしいっていうわけじゃなくて、平等・対等な関係。自分が一番嫌なのは、巣立った子を”教え子”と呼ぶことが嫌いなんですよ。教え子って何って。教職員ならまだしも。よく自慢する人もいるじゃない、うちが教えた子ですって。選手はそこまで思ってないだろうし。だから絶対に対等な関係でありたい。もちろん駄目なことは駄目っていうけど。そんなには怒らないですね。正直あんまり理解されにくいですが(笑)。

ーーエムドリジュニアユースチームについても伺いたいと思います。立ち上げた経緯を教えてください。

森崎さん 立ち上げが2017年。自分が前所属チームで10年ぐらい指導をしていて、このエリアで施設を借りる案件が来て、独立したという流れです。最初は選手2人でのスタートでした。スクールはそれよりも前に開校して、既に4-50人ほどいましたが。徐々にスクールからジュニアユースに上がる子も増えてきて、今ぐらいの規模になりました。小学生から中学生に上がるタイミングで、他のクラブの子なんかだと、チームの強さを求めて入団したけど1学年25人以上もいて、Bチームにいて、そこでくすぶっている選手も多い。それだったらうちみたいなところに来て、強いチーム倒した方が良くない?って。そう思わない親御さんが多いと感じてます。いかに試合に絡んで、出場機会を得て、自分が成長できた方が良いじゃんって思いますね。大人になって、サッカー経験者の10人に9人はサッカー辞めちゃうっていいますからね。シニア層までやってる人なんて今ほとんどいませんから。ドイツの半分以下だって。どこかで面白くなくなるときが来る。まあ他に楽しみができてね、そういう子もいるんでしょうけど。それでもやってほしいですよね。自分が途中で辞めたからそういう発想になってるのかもしれないけど(笑)。

ーー将来的にはプロ選手を輩出できたら良いなというような感じでしょうか。

森崎さん そういうのはないですね。頑張ってって応援するしかない。とにかく続けてほしいなっていう。生涯やってほしい。これだけ。やりたいじゃん、でも色んなことがあってできないじゃん。言い訳であってさ、やろうと思えばできるじゃん。サッカーに出会えたことで、人生が豊かになったって思われる大人になってほしい。それで仲間がいっぱいいるわけだから。コミュニティーが増えて、週末の楽しみが増えて、友達が増えて…これが良いですよね。

ーーエムドリに所属する子供達で何か共通する特徴はありますか。

森崎さん 冒頭にも話したけど、練習の中ではみんなそれぞれが自分の楽しいを見出して、本当に楽しそうにボールを蹴っては追いかけてってやってますね。試合でも必ず全員が出るようにしていて、このタイミングで代わるのみたいな顔をするときもあるけど、大体が笑いに変わる。負けていても良い意味で負けてる感を出さないし、パスミスして失点しても俺ドンマイとかって言ってますし(笑)。もちろん同じミスを繰り返さないようにっていう切り替えはした上でですけどね。自分としては教えるのは簡単かもしれないけど、やっぱりそれだけじゃないから。育てるのが難しい。サッカーやる人生より先の人生の方が長いですからね。

ーー最後に、技術的な部分も含めて、森崎さんから未来ある子供達にメッセージをお願いします。

森崎さん この前とある子どもに「夢なに?」って聞いたんですよ。そしたらプロサッカー選手になることって。「そのためには何する?」重ねて質問して。「練習がんばる!」「勝つ!」って。どちらも合ってると思うんだけど、一番は、上手くなること。これが最も大事。具体的な話をすると、今の小中学生で超多いのが、右でしか蹴れない右にしか行かない選手”右人間”。苦手意識がある中で、右側にボールを持ち替えて右足でボールを蹴る選手のことね。せっかくボール運んで、シュートモーション入ったのに、敵が来たら右に逃げる。自分の右足で打てる位置しか探さない。ドリブルは得意な足で、逆足は添えるだけでOKなんだけど、キックは両方で蹴れるようにならなきゃだめだぞって。そういうアドバイスをしましたね。自分が中1の頃にはサイドチェンジのパスとか、左足でノーステップで反対まで蹴れてましたから、今はもうそんなに蹴れないけど。要は自分の苦手なプレーを反復練習すること。そして、できるようにすること。これこそが成長過程における究極の『楽しむ』かもしれませんね。