

ーーまず始めに、フロリオサッカースクール設立の経緯と現在に至るまでの歴史を簡単に教えていただけますか?
森川宏雄さん(以下森川さん) 設立は2012年なので今年で11年目になります。私自身、元々FC町田ゼルビアの選手をしていて、引退後はそのままチームに残りアカデミーやスクールのコーチをしていたのですが、家族が増えるというタイミングもあり、妻の地元である江東区に移り住むことになりました。他にも色々とお誘いを頂いていたのですが、江東区という土地で自分の経験を伝えていきたいと強く思うようになり、スクールを立ち上げました。最初の1年ぐらいはその想いとは裏腹に子供たちが全然増えていかなかったのですが、そこから少しずつ口コミで入会してくれる子供たちが増えていって、江東区に絞って地道に積み重ねてきたような感じです。
ーーそこから10年以上の時を経て今ではこんなに活気あるスクールになったんですね。
森川さん そうですね。色々なところにスクール会場を設けるのではなく、スクール生が全ての会場に来てもらえる距離で、それも毎回同じメンバーではなくて、色々な子供とサッカーができる環境を作りたく江東区のみで10年間やってきました。今では全ての曜日でスクールを開催していて、全部で92クラスあります。実際に人が増えてきたなと感じ始めたのは3年目あたりですかね。それまでは名前がなかったということもありますし、大きな組織でもなかったので、信用がありませんでした。そんな中でスクールウェアをSVOLMEさんで作って、それも目立つカラーにして、ちょっとずつ「あのユニフォームどこの?」とか口コミで広がっていきました。江東区を意識して作製したサックスブルーが基調のピンク&ライム配色ウェアは抜群に効きました(笑)そういうのが知れ渡ってきたのが3年目ですね。
ーーSVOLMEのユニフォームが力になれたのはすごく嬉しいです。地域でスクールウェアを着た子供たちが知ってもらうキッカケになったんですね。今後も更に大きくというイメージもあるかと思いますが、森川さんご自身の選手・指導者の経験からどのようなスクール像をお持ちなのでしょうか?
森川さん 自分が選手時代にどのようなことを気にしていたかということと、子供たちにとってどのような経験が大切なのかを考えたときに、『本気になる』瞬間を多く創り出していきたい、ここに辿り着きました。スポーツの特徴として、勝ち負けがあり、幼い時から前のめりに参加できる。勉強は頑張っても成果は分かり辛いというか、好きなことで本気になりやすいスポーツの特徴を最大限に活かしたいと考えるようになりました。まず身体を動かしますし、競争だってありますし、そのあらゆるシーンで本気になる瞬間をどんどん創っていくというのが理想ですね。実際のスクールでもそういうシーンが出るように指導していますし、色々と工夫しています。

ーー『本気になる』瞬間を創りたいと思うようになったのはご自身の選手経験からなのでしょうか。
森川さん そうですね。やはりサッカーで、勝負事が楽しいとなったときに、自分は前のめりに参加してきました。誰かに言われてやっているっていう感じではなくなるので。それを未来ある子供たちにも、自ら何かに取り組むとか、楽しい嬉しい悔しいという感情の部分も含めて、感じさせるということをやっていきたい。サッカーは本気になったことをチームメイトや周りの選手とともに感じられるスポーツです。勝って嬉しい、負けて悔しいとかも、それがやっぱりいいところだからサッカーの特徴やスポーツの魅力を最大限子供たちに感じさせたいということはいつも思っています。
ーー日々の指導の中で競争心を煽ったり?
森川さん 煽ってますね。仲間と感情を分かち合うような言葉がけとか、常に意識しています。例えばわざと拮抗するようにとか、あとは全員が前のめりにできるように人数やレベルを調整するとか。あとは息が上がらないと本気になりづらいということもスポーツはあるので。しんどくないと勝ったときに嬉しくないじゃないですか。弱い相手とやってもあまり面白くないし、ちょうどいい相手とやるべきだし…。多少スポーツの特性として苦しい思いをしないと、楽しみは倍増しないから、そこは感じられるように。それを子供たちに言葉で説明するというよりは実際の感情で伝わるようにはしていますね。

ーー確かに『本気になる』瞬間が増えれば増えるほど子供たちの成長に繋がると思うのですが、具体的にどのような場面でその成長を見るようにしていますか?
森川さん 成長を感じられる瞬間というのは本当に狙ったタイミングではなくて、ふとした時に「あ、できた!」みたいな。自分でハッと気付くような。それを傍から見ることができた時にコーチたちも嬉しいしそれが楽しいし。成長するにはできたとか、勝ったとか、達成感を覚えることが大事。だけど、それは決して狙って生まれるものではなくて、頑張って、頑張って、あとしんどい思いもして、たまにポーンと成功したとか上手くなったとかっていうタイミングが出てくるのを僕たちコーチが作っていますね。
ーースクールコンセプトとして掲げられている「人間力」の成長についても森川さんの想いを教えてください。
森川さん 人間力の成長でうちが特に気にしているのは、もちろん『本気になる』というところがメインにはあるのですが、”感情の起伏、嬉しい楽しい悔しいしんどい。その幅をできるだけ大きくすること”。その経験が、感受性を豊かにする。スポーツの場合、自分がそこにコミットしていないとその感情が大きく出ることはありません。一生懸命に頑張ってきたからこそ負けて悔しい。勝ちたい気持ちが強かったからこそ負けてめっちゃ悔しい。何かできて嬉しいと感じるのも、難しいことを要求されていたからで。コーチたちにもよく聞くのですが、人生の中で一番うれしかったことは何ですか?しんどかったことは?悔しかったことは?などを質問します。それはある程度、人生を生きていく上で、自分の感情の幅があった方が人間の深みが出ると思います。先ほども言いましたが、スポーツは色々な感情を経験できる。その嬉しいとか悔しいとか、縦と横の幅を大きく感じられるように子供たちにはなって欲しいですね。だからこそスクールでは厳しいことも言いますし、走ったりもしますし、感情が豊かになるような指導をしています。最近のスクールだと中々怒るとかそういうのはタブーとされているのかもしれないですけど、感情の振れ幅の大きな経験を子供たちにはして欲しいです。

ーー話は変わりますが、ジュニアユース(FC江東)についても少し触れさせてください。昨年度見事にT3リーグ昇格を決めました。2023シーズンから新たなステージでの戦いが始まりますが、どのようなチームなのでしょうか?
森川さん クラブの2期生がT3昇格を達成してくれました。残り10節1試合も負けられない状況で全勝を成し遂げ、とても感動しました。しかし、他の上位クラブに比べるとこれから成長していかないといけないレベルではあります。その中で、昇格を決めた昨シーズンもそうでしたが、インテンシティ(プレーの強さや強度)やしっかり走るといった部分には相当力を入れました。それこそスクールで培った感情や気持ちの部分で負けていなかったのだと思います。また1つカテゴリが上がると強い相手とやれる良い経験を積めるので、技術の部分も鍛えられるように頑張っていきたいですね。
ーージュニアユースチームもこれからが楽しみですね。スクールの方に戻りますが、今月3月から新たに「フロリオ芝浦校」が開校しました。他のクラスも含めて、これから新たに取り組んでいきたいこと等ビジョンはありますか?
森川さん 11年の歴史の中で初の”港区”芝浦会場になりますが、距離的には江東区の会場にも行き来できること、同じコーチが会場間を行き来できること、この2つを考えて開校しました。今後のビジョンとしては、新たにではないのですが、人間力を高めること、それがサッカーの上達にも繋がるということに取り組んでいきたいと思っています。感受性を豊かに、色々なことを感じていく中でそれが言葉になって出ていかないといけないし、人に伝わることが大切。いざ話し出してしまえば自分の思っていることはいっぱいあるものです。ただ最初に言葉にできないのとそれを発するという経験がないので、やっぱり小学生といえども高学年以上の子は自分の考えを持つ、感想を持つ、意見を持つ、そしてそれを喋る。さすがにそれをディベートするところとまでは言えないけど、試合中も練習中も自分の意見を言えるようにもっと要求していきたい。自分の意見を言える、自分の好きなことだから意見を持とう、っていう話はもっとしていかないといけないと思っています。他に取り組んでいきたいとこととして、クラスのバリエーションを更に広げていくことも考えています。既にレベルごとに分けたクラス編成にはしているのですが、アジリティやドリブルスクール、キーパー、ストライカースクールなど親御さんや子供たちの要望に合わせたスクールも開校していて。目的に応じたクラスを出来る限り提供してあげたいという気持ちは常に持っていますね。その目的に向かって前のめりになれることで、更に成長して行って欲しいと思っているので。レベルで小分けにしているのにも良い影響があって、実際のスクール生の中にも1人で複数のクラスに通っているパターンもありますし、8段階に分かれて展開されているクラスのうち3クラスでプレーしている子もいます。目的は明確で、子供なので成功したいじゃないですか。3つのレベルに通うことで色々な感情が生まれます。自分が主役で自信を持ってできる場所、点数が多く取れるレベル、追いかける立場にある状況、付いて行かないといけないという感覚、など。どれも必要な経験だと思います。公園でサッカー上手い子が自分で点数を決めて”ヨッシャ”って言っていたら自慢げになる。でも上手い子とやればまだまだだなと思うわけです。そういうことは絶対に感じておくべき感情だなと。向上心にも繋がるし、同じスクールの中でそれができるというのが良い。これはフロリオならではの魅力だと思うので、ぜひ広げていきたいですね。
ーー最後にフロリオに在籍する選手やその親御さん、OBの皆さんに向けてメッセージをお願いします
森川さん まだスクールが小さい時から今まで沢山の方にお世話になっていますし、助けてもらったことも本当に多くあるので、そのお陰で何とか繋げてきているのはとても感謝しています。今後も、子供たちのスポーツにおける成長できる気持ちとか、意識とか考え方の部分で、その最大値を引き上げるということを僕たちのスクールでしていきたいと思っています。子供たちの感情の部分を伸ばすという立場である以上、複雑な練習をするのではなくてどれだけ心の変化を呼び起こせるか、モチベーションを高めさせるかというところは特に気にしているところなので、これからも意識して見ていただけたらと思います。OBの子たちはもちろんサッカーをやってくれたら嬉しいですし、そうではない生活でも自分が真剣になるとか本気になるという経験を今後もやっていってくれると僕たちコーチは嬉しい限りです。
