


ーーはじめに、バリオーレが誕生してからと影山監督の今に至るまでをお聞かせください。
影山健太監督(以下影山監督) 1980年にクラブを創設して、今年で44年目となります。誕生の経緯としては、当時創設者のお子さんが入団を希望していたチームが、特定の幼稚園に通っている子どもしか受け入れておらず、そこに入団できなかったことから、誰でも入団できるチームを作りたいと思い、「日の出サッカークラブ(現・バリオーレ日の出)」を設立したと聞いています。私自身は、小学校1年生からバリオーレに入団をして、ジュニアユースも3年間、その後の高校・大学を経て、今コーチになるまで、約30年間はバリオーレと一緒に歩ませてもらっています。高校は浦和学院というところで寮生活をしながらでしたが、帰ってくるときには必ずバリオーレに顔を出していましたし、大学時代もアルバイトコーチとして携わっていました。その後は7年間、幼稚園の先生をして、その時期にもコーチや審判として手伝う形で関わらせてもらって、今から7年前に先生を辞めて、正式にバリオーレのスタッフになったというのが私の経歴です。
ーー影山さんがまだ現役だった時代と今を比べてみるとどんな変化がありますか?
影山監督 長い歴史の中でやっぱり良い時もあれば悪い時もあって、自分たちが現役の時代は今のスタイルとは違って、土日だけの練習という形がメインでした。指導者が他に社会人として仕事をされている方々がほとんどで、土日に来て教えてくれるスタイルでしたね。10年ぐらい前から今のように平日練習もするように変わって。ジュニアユースもジュニアもですけど、中々人数が集まらない時期もありましたが、今はそのあたりも戻ってきて、総勢120名ほどになります。この地域もそうですが、近年子どもが減少している環境の中で、遠くから来ている選手も含めて一生懸命にやってくれている子どもたちが集まっています。選手一人一人のモチベーションも上がってきて、サッカーへの向き合い方の部分では補食を入れたりだとか一人一人の表情にも変化が出てきているなというのは感じ取っていますかね。補食の部分は保護者の方々にもサポートいただいているので、感謝しています。
ーー日の出町出身ではない選手だとどのあたりから来ているんですか?
影山監督 ジュニアユースは拝島とか青梅とか、ジュニアの子は八王子とかから来る子がいますね。拝島、青梅からの選手は1時間ぐらいかけて、峠、1個山超えて来ているので(笑)。そういう熱量とかモチベーションを持った選手たちが多く集まってきているっていう感じです。もちろん大半はこのあたりの日の出、あきる野地域の選手なので、色々な意味ですごく良い環境は作れているんじゃないかなとは感じています。
編註:片道9kmを自転車で通う選手もいるみたいです。

ーー次に、育成方針についてお聞きします。どのような内容を掲げられていますか?
影山監督 それぞれの人生に花が咲くように将来を考えて蕾を付けさせてあげたい、ですね。もちろん試合を通してやっていく以上、勝利という部分は求めるのですが、そこを前面に押し出してやっていくというよりは、これから先、サッカーを続けていく選手、続けない選手、サッカーに関わる仕事をする人、そうでない人、様々に分かれていくと思います。そういった中でよく選手たちに伝えているのが、プラス1の努力。何に対しても100%からの+1を頑張ることが、努力できるところが、自身の成長、自信を持つことに繋がっていくと思うんですよね。ただ限界までやるというのが100%ではなくて、自分の中で「今日やり切ったな」とか「最後まで頑張った」とか、そういう瞬間って絶対ありますよね、そこから一歩進んだところが努力であって、成長にもなるって話しています。選手たちには、”ひとりの一歩がみんなの進歩”という言葉と、”今日の一歩が明日の進歩”という言葉はいつも伝えていますね。
ーー素敵な言葉ですね。
影山監督 日頃の練習でも、学校や家のことで色んな思いを抱えながら、気持ちが乗っている時と乗っていない時と波があると思うんですけど、その時々で子どもたちにとっての100%って違うんですよね。でも例えどんな時であろうと、そのあと一歩が出るか出ないかで自分の成長に関わってくると思いますし、あとで振り返ったときにあの時に一歩これだけやれたからっていう自信にも繋がると思うんですよね。ひとりの一歩が、チームとしての輪の広がりに結び付きますし、今日一歩出さなければ明日には進めないので、昨日より今日、今日より明日だよって。昨日より今日の方が良い日だったなって、寝るときに思えるように1日1日を過ごそうと話しています。改めて育成方針でいうと、この先の人生でどれだけ花開くかっていうところをベースにしていますね。
ーーチームとしての強みはどんなところにあると感じていますか?
影山監督 正直うちはそんなに強いチームではありませんが、その中でも一生懸命やれば、これだけの成果が出るんだよっていうのを感じて欲しいというので、実際に我々スタッフが選手と距離を近付けてあげて、選手と同じ目線で接すること、と自分たちのオンオフのメリハリをつけてあげたり、指導の中であえて全体の前で伝えたり、個別で伝えたりと強弱を付けることですかね。褒めたり、何かを求めたりするときは全体の前でするようにしています。基本的に全体の前で伝えることが多いので、個別で伝えるときは特別感というか選手たちもより聞く耳を持ってくれていますね。ただ、全体の前で伝えるときにも、一人一人の表情を確認して、興味あるなしもそうですが、どういう感情で聞いているのかなどを把握して、その後の一人一人へのアプローチ方法を変えています。全てにおいて重要なのは、言葉には嘘をつかないということ。綺麗な言葉を並べる大人もいっぱいいると思うんですけど、子どもたち一人一人は本当に素直だから、本当の言葉を伝えてあげる。心にしっかりと届くように。思いやりがあって、素直にありがとうと言える、そういう選手たちがうちの強みですね。もちろんサッカーなので、技術やフィジカルも大事なんですけど、それ以上に人としての部分をすごく大切に思ってくれているというところは、選手たち一人一人を尊敬できるし、すごいなと思うし、バリオーレらしさだと思いますね。
ーーどのようにして身に付くようアプローチされたのでしょうか?
影山監督 ベースにあるのは社会に出たときのイメージで、例えば挨拶であれば、その意味をしっかりと伝えています。ただしろよ、じゃなくて、何のために挨拶をするのかっていうのが大事になってくるので、他人と自分を繋ぐ第一歩だよとか、グラウンドにいる人たちに対しての挨拶の場合は、今挨拶して大人になったときにまた会ったとしたら、その第一印象になるんだよ、とか。あのチームね、あの挨拶してくれてた子たちねってなると思うんですよね。ゆくゆくは自分のためにもなるんだよって。他にも整理整頓とか、時間もそうなんですけど、そういった意味を全部伝えてあげて話すことで、理解をしてもらって行動に繋げてもらう感じですね。理解していなかったらただやっているだけって納得しないと思うので、そこはまず理解してもらってから。そこから実践するというのは意識していますね。ふと気付いたらみんなできるようになっていましたよ。
ーー影山さんが思うスタッフ&選手、選手同士における良い関係性とはどんなものでしょうか?何が大切になってきますかね。
影山監督 仲間同士で伝え合えるというのはすごく良い関係性だなと思っています。選手たちが思いやりを持って、人として大切なもの、魅力を持ってくれていて、それが受け継がれていくというか、新しく入った子たちに対しても、我々が伝える前に、選手たちが事前に伝えてくれていて、先輩が後輩にはもちろん、同学年の中でも声掛けしているのはよく見ますね。言いづらいとかっていう感じもなくて、そこはさっきも言ったように、我々スタッフが言葉に嘘なく、思いを届けてあげるっていうところが、選手たちも思いがあれば言葉が届くじゃないですけど、ちゃんとそういう表現ができているっていうところは良い部分だと感じますね。我々スタッフ大人も、常に模範にならないといけないところだなというのは心掛けています。あとは感謝のところ。自分たちもそうですけど、選手たちに対しての感謝もそうですし、素直に自分たちも伝える。当たり前ですけど”ありがとう”をしっかりと伝えて、何かこちらがミスをしてしまったら素直に”ごめんね”と言う。常に同じ目線で選手たちにアプローチしてあげるというところについては大事にしています。当然ながら時には怒ることもありますが、思い通りにならなくてむしゃくしゃしたりとか、嫌気がさして仲間やモノに対して強く当たるとか、気分が乗らなくてできることをやらずにサボるとか、子どもなので色々あるとは思うんですけど、本当に良いのかという伝え方をして、そこでも社会に出たとき、大人になったときのイメージをさせて、良いわけないよなって。感謝したり、謝ったり、怒ったり、全部素直にまっすぐ向き合っていれば、サッカーにおいてもオンオフのメリハリが出てくるっていうのはありますね。

ーー実際サッカーにおいてはリーグ開幕2連勝で、プレー面の強みはどんなところにあるのでしょうか?
影山監督 実は今のT3リーグを戦っている選手たちっていうのが、1年生の時に0-19で負けたりとか、二桁失点の試合がザラにあったり、もう本当に勝てなかった学年なんですよね。すごく苦しんできた学年で、ようやく去年2年生に上がってからは少しずつ戦えるように、勝てるようになってきて、そういうのを繰り返す中で、戦術というよりは「勝てるんだ」「できるんだ」っていう自信を付けられたこと、自分がずっと選手たちに言ってきたのは、例え負けたとしても「いやいや、これだけ戦えるようになったじゃん」「1年の時これだけやられてたんだよ、でもここまで来てるんだよ」って。彼らが自信を持てるように伝えて、だからこそこれだけ戦えるようになったんだからもっと戦えるはずだよと。練習も強度を持ってやらないといけないし、やり続ければ必ず結果は出てくるし付いてくるから、と。とにかくずっと言い続けて、それに選手たちも頑張って必死に付いてきてくれましたね。中学生年代、ジュニアもそうだとは思いますが、常に勝つのって難しいと思っていて、でも勝てるタイミングが来たときに、勝たせてあげられる準備をしておくことが、この年代の指導者は必要だと思っているんです。今まさにバリオーレは、そのタイミングが来ていて、選手たちの頑張りと自分たちスタッフの準備が、バチンとハマったから最初の2つを勝てたかなっていう。開幕戦も2戦目も、戦い方は全然違うんですよ。フォーメーションも違う、立ち位置も変えて、戦術も違って、でも試合前のミーティングで必ず「こういう戦い方するよ」「こういう時もあるからね」って。モチベーション動画を作ってみんなに送ったりとか、選手たちに進むべき方向性を示して、自分たちスタッフも同じ気持ちで戦うからなと。こういう積み重ねが上手く結果に結び付いているのかなって感じはあります。強いて戦術的なことを言うなら軸は守備をベースに、カウンターを狙えるところで狙っていくという形はありますけど、本当に毎試合毎試合違う戦い方をしていますね。
ーージュニアユースの選手たちの進路についても教えていただけますか?
影山監督 今はこれから活躍できる選手がどんどんと出てきているなとは感じています。高校・大学に上がって伸びているOBOGも多くいますし、ここ数年で強豪校へ行く人数も徐々に増えてきています。Jクラブから声がかかっている選手もいますね。さっきも話したような挨拶とか思いやりとか感謝とか、そういうことを口酸っぱく伝えていることもあるので、自ら目標を持って来てくれる人が増えているというのは嬉しいことです。
ーーすべての選手の希望進路先に影山さんご自身も同行していると聞きました。
影山監督 そうですね。しっかりと子どもたちと向き合って、将来をより具体的にイメージをさせて、そこから出てくる熱い思い、その子の良さを直接自分からも伝えに行っています。バリオーレで活躍してくれた選手や支えてくれている保護者への誠意、感謝と思って一緒に行っているという感じですね。セレクションだけではなく、練習参加をさせてあげることで子どもたちの選択肢の幅も広がりますし、一人一人と誠心誠意、向き合って、その後の良い人生が歩めるようにサポートしています。その中で、必ずしもサッカーではなくても、立派な社会人になって欲しいという気持ちはありますね。選手たちもよく使う言葉の一つに、さあいこうー!!というものがあるんですけど、試合前に気合を入れるワードでもあるし、日常から”最高”なモチベーションで臨めていたら、”最幸”だよねって。そういう意味合いも含めての平仮名なんです。高校に上がってからもブレずに”最幸”な学校生活を送って欲しいと思います。
ーー最後に、現役のバリオーレの選手、OBの皆さんに向けて、メッセージをお願いします。
影山監督 現役の選手たちについては、今のこの調子でモチベーション高く、OBのように、更にはそれよりも良いところまで行って、より自分の人生を豊かにできるように頑張って欲しいと思います。その中からOB指導者として戻ってきてくれる子がいたら嬉しいですね。リーグや大会の目標でいうと、ジュニアユースは関東大会出場とT2昇格というものがあるので、そこを達成できるように練習からプラス1の努力を重ね、頑張りたいですね。ジュニアの方は中央大会出場、まずはTリーグ参戦に向けてやっていくのみです。まだまだ進化できるぞということを伝えていきます。OBに向けては、バリオーレで学んだことを活かしながら今いる環境で一生懸命に戦って欲しいと思います。ここはいつでも帰って来れるアットホームな場所として待っているので、気が向いたら遊びに来て欲しいですね。
=== 編集後記 ===
SVOLME FAMILY INTERVIEW 2024 #2 お読みいただき、ありがとうございます。
今回の取材対象は、東京・日の出町を拠点に活動するジュニアユースチーム、バリオーレ日の出の影山健太監督。
平日18時~の練習前に話を伺いました。
今回、色々と聞かせていただいたなかで、インタビュー内容にもあったように人間育成に軸足を置かれ、
社会人の記者である私にとってもすごく理解できる素晴らしい育成方針で、
実際に当日練習中の選手への一つ一つの声掛けには目を見張るものがありました。
その他にも言葉ではなく行動として、サッカー進学を志す全ての選手の入団希望先に同行しており、
これもなんと自費で行っているという…。
選手に同行する影山さんの代理で練習を見てくれるコーチへはもちろん、
そのようなチーム環境を作り出してくれるスタッフへの感謝も口にされておりました。
そんな影山さんの熱い言動が、子どもたちの心に響いているのだなと感じます。
サッカークラブに限らず、どんな集団においても、
仲間一人一人への感謝と誠意、当然わかってはいるけどそれを常に行動で示せている人はなかなかいません。
「知っている」と「できる」は大きく違う、と編集クルー一同も思い当たる節があり良い学びになりました。
その大切さに気付かせてくれた影山さんへの感謝の言葉を最後に、後記を締めさせていただきます。ありがとうございました。
今回インタビューを通して、進路に悩まれている小学生、またその親御さんにサッカーを軸とした様々な選択肢があること、
色んな出逢い、ご縁、チーム選びがあるということを知って頂けたら幸いです。また次回の取材もお楽しみに。
